TOYOTA CAR

「レビューサイトやGoogleマップで評価が高い工場に持ち込んだが、評価されるほどの仕上がりではなかった」
「友人から聞いて上手いと聞いていた工場に出したら、色が違った」

という場合もあれば、逆に悪い評価が書かれていても、とても良い仕上がりであることも考えられます。
また、設備が整っている工場の評価より、格安店の方が評価が高いという例もあるかもしれません。
(仕上がりを気にしない評価基準なのか、高い評価のハードルが低いのか・・・いずれにしても鈑金塗装工場の評価とは難しいものです)

弊社も過去の記事で、鈑金塗装による色の違いの解説というものを書かせていただいておりますが、ムラや仕上がりにブレがある理由を思いつくままに記載していきます。
当然、「そのような(考えの・状況の)工場に出したくない」という内容も記載せざるをえませんが、修理に出す前にベテランスタッフは健在か、しっかりした仕上がりのためには納期があれば出来るのか、状況が変われば出来るのかなど、工場に確認していくことで双方にとって良い結果になります。

(厳密に言えば)同じ色は作れない

早速「そんな事を言う工場には出したくない」と言われそうです。
しかし、私がよくお伝えするように鈑金塗装は魔法ではなく、メーカーから新車塗料が売られている訳でもありません。
測色機といったデジタルでの調色補助システムもありますが、計測の構造上、同じ色が作れている訳ではありません。
そもそも、対象車両に塗装の劣化によって色の差がある、修理歴のある車のために各パネルで色に差がある、予算的にボカシ塗装を多くのパネルで取れない、今回の修理箇所とは関係の無いキズや凹みなどがあるために塗装範囲に悩む等といった状態もあり、多くはカンと経験に頼っている”調色”という作業には、ブレやムラがあるものだと言えます。

例えば、「前回はピッタリあったけど、今回はイマイチだった」という場合もあるでしょう。
一人のベテランの塗装スタッフのみで工場を運営していれば、前回と同じ人が同じように作業をして、同じコンディションで挑めればそのような事は少ないかもしれません。
しかし、一人のベテランの塗装スタッフのみであっても、体調や加齢、忙しさ等による精神的なプレッシャー、本当は無い方が良いのですが、プライベートな問題などで作業内容にブレやムラが出る場合もあります。

修理済みのパネルや、劣化具合が異なる車両等は、2色作って右はこっちの色、左はこっちの色でボカシあって合わせる、といったテクニックが必要な場合もあります。しかし、手間がかかるのに作業工賃には反映する事が難しいため、多くの工場ではこういった方法はどうにもならない時の最後の手段となっていると思います。

難しい色が増えた

「あの工場は上手だったのに、最近は評判が落ちた」というケースもあるでしょう。
これについては、ここ10年~15年で難しい色が増えたという問題があります。

黒系の色が流行っていた時代では、今よりも調色の技術は問われていなかったかもしれません。
細かな確認・細かな作業の不足で仕上がりに差が出やすいのは、淡い色やホワイトパール、カラークリアの塗装です。
こういった色は、吹き付ける回数で全く別の色に見えてしまいます。そのため、テストピースと呼ばれる調色板に塗装したのと同じ回数だけ同じように吹き付けなければ同じ色にならないといった部分で、ミスを誘発しやすくなります。

新色によってはディーラーの集中工場でも嫌がるほど、補修塗装が確立されていないものもございます。
昔は上手かったと言われるのは工場としては辛いところですが、塗料メーカーの努力により作業性が向上する中、自動車メーカーのチャレンジによって調色難易度は高くなっています。

バンパーなどの樹脂部品は初めから色が違う

「今回の作業で塗装していないバンパーとの色の差が前よりも目立つ」という方がいらっしゃいます。

では、バンパーの色に合わせて塗装をすれば良かったのでしょうか。しかし、新車時から既に色が違うように見える樹脂バンパー等に合わせるのはリスクが高いためあまり行われないでしょう。
どこで色合わせを行うのかは、塗装作業者によるセンスで異なるかもしれません。

そもそも、なぜ樹脂部品は色が金属パネルと異なるのか、下地塗装が入っているのに不思議です。
これは、樹脂部品はその柔軟性から、パネルに対する塗装追従性という機能を追加するために、塗料に混ぜ物を行います。これが色の差を生み、色の劣化スピードの差を生むために同じ色でも違って見えるという結果に繋がっていると言われています。
(初めからこの機能を追加した色で調色し、金属パネルに塗装しても問題は無いのでは、とふと考えてしまいましたが、誰もやらないという事はこの方法には何か問題があるのでしょう)

塗装作業者が日本全国で不足している

外国人技能実習生や特定技能といった、日本人以外の作業者を見る機会も多くなりました。
金属塗装といった作業内容でのビザもございますが、板金塗装工場で見る彼らの多くは自動車整備という作業内容のビザを取得しています。そのため、塗装作業に従事している人材の確保は非常に難しくなっています。

そんな中、ベテランのスタッフの体調不良中であるとか、退職してしまったといったケースも散見され、そのまま廃業になってしまう工場も出てきています。
「ベテランが居ない中で作業をすると評判が落ちるのだから、作業をしないで欲しい」というお客様もいらっしゃるのは理解しておりますが、価格転嫁が20年以上出来なかったこの業界では、ベテランスタッフが一人就労困難な状況になると、若手が塗装するというケースも考えられます。

工場によっては、塗装作業を細分化し、調色や下地処理はベテランが行い吹き付け塗装は若手が行うという場合もあります。
この場合、塗装作業は同じ人が行っているものの、色が違う・仕上がりが悪いという事案は発生しやすいのではないでしょうか。
若手、という書き方をしていますが、若い人で上手い人は上手いです。鈑金塗装はセンスと性格がハッキリと仕事に出ます。

良い(上手い)板金工場がこれから先も残るために

これらを全て解決するには、

  • 鈑金塗装工場が価格転嫁を行い、勤務したくなる魅力ある工場が増える
  • 塗装作業従事者が増え、全体の技術力が向上し技術の継承が可能となる
  • 技術力の差が仕事量や価格の差に繋がるような仕組みが出来る
  • 長期の休暇・退職等のトラブルがあっても、ベテランスタッフを複数雇える

といった事が必要となります。
2023年7月現在、板金塗装工場は価格転嫁を進めている工場とそうでない工場に分かれてきています。
塗装材料費の高騰など、昔よりも価格は高くなってきていますが、価格転嫁できない工場ばかりが選ばれると、修理できる工場が近隣になくなってしまうという地域も出てくるかもしれません。

人手の問題については、どんなに高い給料を確約したとしても、夏はブース内が非常に暑くなり、リモートワークもできず、(弊社は残業時間が短めですが)仕事が集中すれば残業時間が長い工場も多いという中で、果たして鈑金塗装工場がどこまで魅力ある業界に戻れるか・・・難しいかもしれません。

価格転嫁できなかったこの20年は、設備が無くいい加減な工場ほど利益率が高かった時代もありました。
技術力や設備の差が価格差に繋がる仕組みができつつありますので、仕上がりを気にする方はここから先5年ほど良い工場探しに苦労するかもしれません。

弊社も近隣の自動車関連会社から高い評価をいただく事はございますが、仕上がりにムラが無いとは言えません。
自動車鈑金塗装業界全体が活性化し、作業者の確保が容易となり、他社と切磋琢磨できる状況が出来るよう、微力ながら業界に貢献していきたいと考え、様々な情報を発信していきます。

投稿者プロフィール

shusukesano
shusukesano
2022年7月時点で板金塗装工場のフロント(事故修理担当者)歴16年目。
年間700件近い事故に携わり、事故の総取扱件数は10,000件を超える。
お客様や取引先からはもちろん、同業他社のフロント担当者からの支持も厚く、困ったときは佐野に聞け!という板金工場も多い。
2022年1月に4歳になった娘と家族のため、月間残業時間10時間以下を心がけている。

Categories:

Tags:

No responses yet

    コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です