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鈑金塗装(事故修理)の業界でも、一括見積もりサービスや鈑金塗装工場とのマッチングサービスが増えてきました。
そこで、一般論としての一括見積もりサービスや業者とのマッチングサービスの話と、
鈑金塗装工場目線での話を書いていきたいと思います。(文字ばかりで長文です)

一般論としての​一括見積もり・マッチングサービス

(この記事は、佐野の主観が多く含まれております)
まず、一括見積もりサービスやマッチングサービスの業者は、概ね10%~30%程度の手数料を業者から徴収しております。
これは、一般的には顧客獲得の費用、つまり広告費としての側面を持つため、それ自体が悪いとは言えません。
(サービスによっては、検索や公式サイト上で手数料を確認できる場合があります)

同じ金額で少しでも良いサービスを安く受けたい場合、広告費をかけずに仕事を取れる業者を選定した方が良い、という事となります。
広告費が多くかかっているサービスを受けるという事は、広告収入を得ている会社の従業員の給料まで支払っている事になりますので、同じ料金でサービスの質が最大化するはずがありません。
広告費をかけずに仕事を取れる業者であれば、その分だけ従業員の教育や、設備投資、顧客満足度を上げるための費用を捻出出来る事となります。
(広告費をかけすぎている場合、ブラック企業である可能性も高くなり、サービスの質の低下が懸念されます)

また、インターネット上での「比較」というものは、そのメリット・デメリットの話は置いておくとしても、金額という分かりやすく重視されやすい数字に左右されます。
料金を安くすることでしか仕事が取れないのであれば、広告費の割合が多くなり、質の維持向上は難しくなります。
価格転嫁が出来ないまま仕事の奪い合いをした業者だけが残る、という事となり、質の低い業者が集まるという結果になります。

又は、顧客との接点を持つためにマッチングサービスに登録している、質の高い業者が存在するかもしれません。
質の低い業者が多くいる中で、質の高い仕事を行う事でレビューが良くなっていたり、質の高さを全面に押し出す事で価格転嫁が出来ると思います。
金額を重視される方は最安値を提示する業者、質の高さを重視される方は最安値を提示しない業者、と使い分ける事おが、一括見積もりサービスやマッチングサービスの使い方だと思います。

一括見積もり・マッチングサービスを使わない場合の業者の探し方

私は一括見積もりサービスや業者とのマッチングサービスを利用したことがありません。
なぜなら、マージンが大きい事を知っているためであり、これにより(後述しますが)サービスの質がかなり下がる可能性がある事が考えられます。

一括見積もりサービスやマッチングサービスは、逆オークションのような性質があります。
必要としているサービスに対して業者が値段をつけるのですが、プロが料金を決められるほどの情報を一消費者が提供できるとは思えません。
そんな中で、マージンを考慮して価格を決定するのは、結構骨の折れる作業だと思います。

比較.comなどの比較サイト、口コミサイト、レビューサイト、Google map上での評価の確認などは良く利用します。
業種によっては口コミやレビュー・評価は少ないのですが、例えばGoogle map上での評価に対するコメントは、そのお店の姿勢が伺えます。
業種にもよると思いますが、評価やクレームに対する返信内容などを見ると、そのお店がWEBに力を入れているのか、真摯に対応してもらえるお店なのか、そのクレーム自体が適切なのか(クレームを言っている本人に問題が無いか)が分かると思います。

鈑金塗装における一括見積もりサービス・マッチングサービスについて

鈑金塗装は、人によっては10年に1度、一生に一回きりしか依頼する事が無いかもしれません。
同じ予算で、可能な限り良いサービスを受けていただきたいと思います。
事実を基にし、フラットな目線で書いていきたいと思います。

問題点その1:写真見積もりには限界がある

鈑金塗装工場が、損害状況にもよりますが最低でも5枚~20枚ほど撮影した写真を基に、保険会社は損害額の暫定を出したりもしています。
しかし、事故に慣れていない、損害部の写真撮影になれていない方が撮影した数枚の写真だけで、損害額を算出するのは非常に困難です。

2021年に行われた見積もりコンテストも損害の写真で作成するものですが、プロが分かりやすい写真を撮っても見積もりの金額は最大で2倍近く差があるようでした。
これは、損害が一般的には中程度で車両保険を使った方が良いくらいの事故ではありますが、
「写真見積もりには限界があり、数枚の写真だけで正確な見積もりを出すのは難しい場合がある」
と言えます。
(特に、写真がアップすぎてキズがついているパネルの全体が映っていないため、オプション品等の取付状況が分からず、実際に見て分解や脱着の費用が追加となるというケースは弊社でもございます)

問題点その2:マージンを考慮するとベストなサービスが提供できない可能性がある

一括見積もりサービス・マッチングサービスにもよりますが、マージン(手数料)を仮に(この業界平均であると思われる)20%取っているとします。

この手数料には、「システム維持費、広告費、システムの顧客獲得費(ポイント等)、(サイト上で決済する場合は)決済手数料」となっている訳ですが、鈑金塗装の中身を知っていれば、このマージンはサービスの質を低下させる可能性が非常に高いと言えます。

多くの場合は部品代の粗利が20%も無い(=部品を使えば使うほど赤字になる)のです。
すると、「ここから来たお客様には、可能な限り部品を使わないようにしよう」となる訳です。
場合によっては、定価よりも高い金額で部品を売らなければ赤字になる作業もあるでしょう。
(サービスによっては、この問題を理解しているので工賃のXX%と設定している場合もあります)
純正品では赤字になるという事で、純正品を使っていないかもしれません。

その上に、仕上がりという言葉では伝えづらいもので選んでもらうには、説明の上手い工場でないと難しいです。
説明もオーダーメイドで文章を入力する丁寧な対応をするのであれば、人件費がかかります。
説明の手間を省くもっとも簡単な仕事獲得方法として、価格競争となりやすいです。

顧客が安く修理出来るのであれば、何も問題が無いように思えます。
しかし、本来は部品交換が必要である損害(メーカーが衝突安全性や各種装備の機能を維持するために設けている、こういった修理はしないで交換しなさいとしている基準があります)でも、「部品交換したら赤字になるから直すぞ!」と、直してはいけない状態のものを(お客様にそれを伝えずに、又は伝えられる知識を有さずに)無理に直す事によって、車によっては機能を阻害する可能性があります。

例えば、「ブラインドスポットモニター 修理不可」で検索すると出てきますが、(いわゆる自動ブレーキや車線変更時のアラートを中心とした)先進安全運転装備を装着している車両では、バンパーの一部を修理する場合、その機能を阻害する可能性があります。
修理してしまう事で発生する軽微な症状の例としては、今までと同じ距離でアラートを出せない・自動ブレーキが効かない、重症になるとエラーが発生して消えない、という事も考えられます。
この症状を改善するには、バンパーを交換するしかありません。
最近では、スズキ車でも採用されており、5年前より修理不可の部品や箇所は増加しているという印象です。

では、こういった「修理をしてはいけない損害(箇所)」について、どれぐらいの人が知っているでしょうか。
実は、ディーラーで勤務されている方や、中古車販売店の方も知らない傾向にあります。
事故修理のプロである鈑金塗装工場でも、まだ知らない工場があります。
なぜなら、メーカーが大々的に発表している訳ではないので、自ら進んで最新の情報を取得しようという姿勢が工場にないと、知らない可能性が高いためです。

問題点その3:値引き率が悪い(可能性がある)

仮に弊社がそういったシステムを使うとすれば、定価でのご案内になるかと思います。
これは、システム側に利用料を取られるため、値引き幅が無くなってしまう事に起因しています。

クーポンなどで良くある、「他の割引サービスと併用はできません」に近い状態になるとお考えください。
とはいえ、価格競争を行う工場も多いと思いますので、値引き率をした後の状態になっている場合も多いかと思います。
価格に納得すれば、そこまで気にならない問題かもしれません。

一括見積もりサービスやマッチングサービスは広告費で、顧客獲得のための費用です。
高額な広告費をかけないと仕事が取れないという事は、信頼を得られていないのかもしれません。

一括見積もりサービス・マッチングサービスを利用すべき方、すべきでない方

一括見積もりサービスやマッチングサービスが優れていないわけではありません。
平均的な鈑金塗装工場は、自社サイトを所有していないか、所有していても運用していないために、写真見積もりに満足に対応出来ないという場合があります。

メールに対応しているとしても、最近は「メールで写真を送る事自体は構わないが、メールチェックの頻度が低く、メールで返信されても気づかない」という方も多くなっていると思います。
これに対し、一括見積もりサービスは、写真を撮るという手間は同じであるものの、分かりやすいシステムになっている場合が多いかと思います。

以上より、利用すべき方としては
・部品の交換がほとんど無い作業のご依頼

・手間をかけずに安く修理してくれる工場を探したい
・手間をかけずに工場を選別したい
・信頼できる工場は知っているが、相見積もりとして見積もり金額が知りたい

と考えられます。

また、利用すべきでない方としては、
・部品交換が多く、工賃が少ない作業のご依頼

・既に信頼できる工場を知っている、探し出している
・安かろう悪かろうという工場には依頼したくない
・マージンがある事で適切な修理方法を取ってもらえないのは嫌

と考えられます。

少し手間はかかるが、良い工場を探し出すには

良い工場の定義は難しいものになり、損害の状態や車両保険の有無、相手の有無、ご予算などによって変わります。
しかし、まずは行ける範囲で良い工場を探す、というのが一つの問題になります。
事故修理であれば車での移動となりますので、多くの方の行ける範囲というのは、10km(30分)程度かと思います。

Google mapで鈑金塗装と検索する(https://www.google.com/maps/search/%E9%88%91%E9%87%91%E5%A1%97%E8%A3%85)と、近隣の鈑金塗装工場が出てくると思います。
弊社の周りだとパッと表示されるのは20社前後になりますが、良い工場を探し出す一つの方法をご紹介したいと思います。

一つ目は、WEB上で情報を得られる会社かどうかです。
WEB上で情報を公開しているという事は、比較的最新の情報に明るい傾向にあります。
つまり、「修理してはいけない箇所」や、「修理する事で衝突安全性能が落ちる箇所」を知っている可能性があります。
お客様の安全を担保する修理が鈑金塗装工場の責務だと思いますので、一つの目安は自社サイトがしっかりしているか、スマホ対応を行っているか、最新の情報を常に取得している気配があるかどうか、となります。
自社サイトに何も書く事が無いから持たない、という場合は、その会社には強みが無いのかもしれません。
強みの無い会社は、必然的に価格でしか競争できる部分が無くなると思います。

二つ目は、設備についての情報があるかどうかです。
損害の状態によっては、過剰な設備を有していても、お客様の修理には関係が無いかもしれません。
ほとんどの鈑金工場では、1時間あたりの工賃を定めておりますが、その決定方法に経費が入る事がほとんどです。
大事故専用の設備が複数ある事は素晴らしい事ですが、小さい損害で、予算を重視して直したい場合は過剰な設備の意味はありません。
しかし、良い設備を複数揃えられるという事は、それだけ仕事が充分にあり信頼されている証でもあります。
予算を伝えて、納得のいく金額であれば、設備が優れた工場の方が仕上がりは安心できると思います。

最後に、値引き幅が大きすぎる工場は怪しいです。
この業界には定価がありません。分かりやすい例でいくと、歯医者さんの自由診療のような形になります。
目安として「ディーラーの見積もりを定価と捉える」方法があり、分かりやすいのですが、
「同じ作業を5割引きで作業します!」と言っても、設備や知識、経験、使用している材料によって、工場の経費は全く異なる者となります。
ある歯医者さんが50万円のインプラントで、別の歯医者さんが20万円だとすると、同じ材料や材質、同じ仕上がりだとは思えないはずです。

弊社では、可能な限りご予算に合わせた作業方法をご提示しています。
ご実費での修理であれば、普通の人には気にならないレベルで品質を確保する場合の見積もりをベースとし、予算に合わせていくとどういった部分で仕上がりに影響があるのかをご説明させていただきます。
一括見積もりサービスやマッチングサービスを利用する時が来るかもしれませんが、その時に新たな発見がありましたら、お伝えしていきたいと思います。

 

投稿者プロフィール

shusukesano
shusukesano
2022年7月時点で板金塗装工場のフロント(事故修理担当者)歴16年目。
年間700件近い事故に携わり、事故の総取扱件数は10,000件を超える。
お客様や取引先からはもちろん、同業他社のフロント担当者からの支持も厚く、困ったときは佐野に聞け!という板金工場も多い。
2022年1月に4歳になった娘と家族のため、月間残業時間10時間以下を心がけている。

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