国土交通省より、車体整備工場向けの透明性確保のためのガイドラインが3月30日に発表されました。
ガイドライン内では、ビッグモーターさんを名指ししておりますが、実際のところこの業界ではビッグモーターさんに近い事をしている会社が昔から数多くいらっしゃいました。
透明性の確保が必要な世の中になっているよ、という当たり前のことを言わなければいけなくなったのですが、ガイドラインの内容について弊社の状況や見解等を記載していきます。
実施する事が求められる取組について
(1)車体整備作業に係る画像情報の記録・保存
弊社では20年以上前から作業前・作業中・作業後の写真撮影に取り組んでおりますが、保険会社に送信する必要性から、ほとんどの工場で撮影・保存していると思います。
10年近く前の作業写真も出てきます。可能な限り過去のデータも残すようにしています。
昔、デジタルカメラの画質が向上する前はいわゆるフィルムのカメラで保険会社に送る事もあったようで、その名残もあり保険会社に「写真代」というものを請求しています。
保険会社によっては、デジタルとなったために写真代の請求を退けておりますが、「デジタルカメラ等撮影機器の維持費用」「画像の保存や保管に関する経費」「画像を送るという作業についての経費」等を考慮すると、今後請求する事由の一つになると思います。
とはいえ、ほとんどの案件で請求する事になるのであれば、工場経費として1時間あたり工賃に含む、という考え方もできますね。
(2)車体整備作業の内容・方法に係る情報の記録・保存
ガイドラインの中で、こちらがちょっと難しいと感じました。
特に、
・車体修理や部品交換等の車体整備を行っていることが分かる情報(例. バンパー取付けにより交換部品が見えなくなる場合における当該交換部品)
https://www.mlit.go.jp/report/press/content/001734259.pdf(4-2-1-2より)
こちらですが、当該交換部品を作業後に(特に大きいパネルについて)並べて写真を撮影しています。
しかし、クリップ1個等の細かいパーツや付属品については、全て写真に撮影すると非常にコストがかかります。もちろん、その工賃をデフォルトで請求すると言ってもご納得いただけないでしょう。
そのため、可能な限り全ての交換部品をナンバー等の識別可能な情報と共に撮影してほしい、というご依頼がありましたら、別途費用を頂くことになるでしょう。
(2)車体整備作業の内容・方法に係る情報の記録・保存
使用した塗料の品名とありますが、例えば調色をするにあたって使った全ての塗料を撮影してほしい、と言われたら別途費用をいただいても困難かもしれません。
調色作業を著しく阻害する可能性があり、作業者が非常に嫌がる姿が目に浮かびます。
鈑金塗装工場にとって、無理な事は無理と伝える勇気が必要なガイドラインです。
実際に行った作業内容が(当初見積もりや説明から)異なった場合の理由、とガイドラインに記載がありますが、これは作業する前、又は作業中に理由の説明が必要だと感じます。
弊社も、取替を予定していたが鈑金になる、又はその逆といった事が実際にございます。
変更の理由を一部ご紹介しますと、
・保険を使う場合で、保険会社が交換を認めなかった
(工場側が交換とする理由が弱い場合もあれば、保険会社の理由なき減額交渉とした作業内容に対する口出しの場合もあります。保険会社のアジャスターは契約者や被害者の味方ではなく、工場側の過剰な見積もりの是正と称し実情は支払い保険金を減らす努力をしてる場合もあります)
・部品の在庫が無かった等、入手に非常に時間がかかる
というものですが、概ねご理解いただけるものになります。
ただ、鈑金塗装工場によっては「こっちの方が車の為になる」といった身勝手な理由付けをする場合があり、その裏で「こっちの方が儲かる・売上が上がる」「こっちの方が楽・早い」という理由で作業内容を変更する場合がございます。
見積もり書が修理契約の書類となる事が多い業界です。
契約内容を変更するのであれば、その理由をご説明する必要があり、それは当然のことであると感じます。
(3)車体整備の料金に係る情報の記録・保存
使用する塗料の名称を記載と書いてありますが、弊社では事前に使用塗料を確定するのが困難な場合がございます。
特に、お客様から水性塗装をご希望である、溶剤での塗装をご希望である、といった場合にはほとんどの場合それが可能ですが、実際に調色をする中で「水性塗料の方が色が合う」「新車塗装に近づける」という仕上がりに関する理由から、見積書では水性塗装ではないが、水性塗装を行うという事も実際に発生します。
ご実費の場合、追加料金をいただかない事もございます。あくまで弊社が求める仕上がりの為に勝手に行った選択となります。
水性塗装をご希望でも、色の設定が無い、水性塗装の方が色が合わない等の仕上がり上の理由からお断りさせていただく可能性もございます。
確認漏れがない限り、水性・溶剤については記載しておりますが、弊社のように複数種類の塗料を色や状態によって使い分けている工場は比較的少ないかもしれません。
(5)消費者等への適切な説明と消費者等の了承
多くの場合、お預かりをする段階で修理する意思があるという事になるかと思いますが、まず見積もりをしてその内容をもってご修理意向のご判断を仰ぐという事もございます。
しかし、鈑金塗装の見積書というものは特殊で、部品名称を見てもプロでさえ全ての部品についてどこにどうついているか分かるものではありません。
全ての部品について、どこについていてどういう機能でなぜ交換が必要なのか、というものを1点1点行ってうと、お客様も疲弊してしまいますし、フロントスタッフの人件費を考慮しても価格に転嫁せざるを得ない事となります。
そういった意味では大まかな部位と作業方法のご説明という事になりますが、希望があれば多くの説明が可能かと思います。
(1)車体整備作業の見える化
カメラ設置とありますが、お客様はカメラの設置を本当に望むでしょうか。
全ての車両のナンバーを隠すことは出来ても、特定可能なカスタマイズ部分等を隠すのは、現実的には不可能です。
場合によっては特徴的な車両や特徴的な事故であれば、車両の特定が出来てしまう事も想定されます。
従業員のプライバシー問題もありますし、カメラには死角もあります。
某損保さんもカメラ設置を求めてきたので「誰のため、何のためにやるのですか」と確認をしました。
カメラは1か所では死角ができるため、工場内全ての車両が置けるスペースに死角がないようにカメラを設置し、それをライブ配信又は録画するといった場合、その手間や設備に関わる全ての費用を価格に転嫁させる(顧客に負担させる)というのは、私の納得のいく方法ではありません。
従業員がお客様の車を故意に傷つけているかもしれない、という不安を抱えざるを得ないような評価制度を見直すべきです。
弊社は、工場の全てのスタッフに売上や粗利といったノルマを課しておりません。評価も売上や粗利ではなく、個人のインセンティブはありません。
ビッグモーター社では、個人のインセンティブや評価、店舗の売上達成を目的とした器物損壊罪を行っていたわけですがこれは評価制度によってどの業態・工場でも起こり得るものだと考えています。
このあたりは、過去の記事である「インセンティブはこの業界には合わない」に記載しています。
まとめ:これからは情報発信がカギになる
比較的鈑金塗装工場向けの記事となりましたが、顧客の求める鈑金塗装工場について書かれている良いガイドラインだと感じています。
(2)消費者に対する積極的な情報発信にもあるように、これからは情報発信をきちんとしている工場が選ばれ、残っていくのではないでしょうか。
業界は価格転嫁や指数の問題等の話題が多くなっておりますが、ボデーショップ佐野は数年前にそのあたりの取り組みは目途がついており、ほとんど後半、終了間近の話題となりました。
佐野の知識を自社だけで留めておくのは勿体ないので、これからも情報発信を続け、顧客や同業他社が知りたい情報を細々と記載していきます。
投稿者プロフィール
- 2022年7月時点で板金塗装工場のフロント(事故修理担当者)歴16年目。
年間700件近い事故に携わり、事故の総取扱件数は10,000件を超える。
お客様や取引先からはもちろん、同業他社のフロント担当者からの支持も厚く、困ったときは佐野に聞け!という板金工場も多い。
2022年1月に4歳になった娘と家族のため、月間残業時間10時間以下を心がけている。
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